北海道という大地は
新発見と可能性に満ちた、ノースアイランド
日本の動植物の分布を区分する重要な境界線としてブラキストン線が知られますが、これは橋のない津軽海峡上に引かれ、日本最北に位置する北海道と本州では大きく違うことを示しています。長い場所では半年近く氷に閉ざされる、厳しい自然のなかで種を繋ぐ淡水魚類もじつに個性的です。
完全ネイティブのアメマス、1mを超える国内最大の淡水魚イトウ、短い夏を謳歌するヤマメとオショロコマ、野生のニジマスとブラウントラウト。「トラウト王国」と呼ばれるゆえんは、海と川を行き来しながら巨大化するサケ科の遡上魚が豊富に生息しているからです。
ヒグマが守る渓谷、エゾシカが闊歩する原野、流氷が押し寄せる酷寒の海岸……。ここが日本とは思えないシチュエーションも豊かさの証。そんな場所が、すぐ身近にあります。
遡上魚を海岸からねらうのも北海道が世界に誇る釣りのひとつ。シロザケに始まってアメマス、カラフトマス、そして近年はサクラマスが大ブーム。現在進行形で有効なタクティクスの模索が続いています。そして、もうひとつの魅力が食。
日本海、太平洋、オホーツク海と四方を3つの海洋に囲まれ、そのすべてに美味しい魚がいます。数多いカレイ類、ソイやカジカといった根魚、さらにイカやブリなどの青ものもここ数年は人気。白銀の世界になる冬は、道内各地がワカサギ氷上釣り場になります。旨い魚をだいじにいただくのも釣りの醍醐味です。
北の釣り人が発信する『North Angler’s』は、キャッチ&リリースで楽しむトラウトルアー&フライフィッシングをメインにしながらも、北海道ならではのさまざまな釣りを提案し、日本の総面積の約2割を有する広大な大地を遊び尽くす雑誌です。
北海道の開拓が始まった明治2年から、150余年。年を追うごとに新しい発見があり、世界からも注目されるフィッシングフィールドになる可能性を秘めています。
North Angler’s(つり人社)×環境問題
釣りをしていると、魚が多い場所、少ない場所があることに気がつきます。たくさん釣れる日もあれば、同じ場所、同じ方法で釣っているのにさっぱり掛からないことも多々あります。
釣れなければ悔しいし、「なぜ?」と考えるのは自然なこと。そしてこの「なぜ?」をきっかけに、私たちは多くのことを学ぶことができます。
たとえば川の流域に豊かな森がなければ、ちょっと雨が降っただけで川は増水して濁ってしまいます。ヤマメやイワナ、オショロコマなどは、夏場は河畔林から落下する陸生昆虫を多く食べています。また水生昆虫の多くも、落ち葉をエサにしています。
つまり魚が生きるためには、森が重要な役割を果たしているのです。そして森が育むのは、魚だけではありません。宮城県では美味しい牡蠣を養殖するために、川の上流域に木を植えるという試みをしています。森の恵みは川を通じ、海まで届いているのです。
方法が間違っていて目的が達成できないことを、中国の故事成語では「木によりて魚を求む」と言います。でもよくよく考えてみると、実はこの言葉、意外と正しいのかもしれません。
そして近年、森を育てるのも実は魚ではないかという研究が報告されています。遡上魚が川をさかのぼり、クマやキツネ、猛禽類などに食べられ、その栄養が木々を育てるというのです。
北海道では、たくさんの遡上魚が見られます。森から海へ、そして再び森へという栄養の循環において、シロザケやカラフトマス、アメマスなどの遡上魚が重要な役割を担っています。
海と森がつながった環境があればこそ、私たちは末永く釣りを楽しむことができるのです。釣りを通じて、北海道の自然について考えるきっかけになれば、私たちにとってこれほどの喜びはありません。
Anglerとしてできること
最近、釣り人が増えているという話をよく聞きます。この素晴らしい趣味を分かち合い、ともに楽しめる人が増えているということは、素直に喜ばしいことです。
これからも海や川、湖にたくさんの魚が泳ぎ、私たちが釣りを楽しむためには、魚と環境を守っていくことが大切です。今の自然は、太古の時代に存在していたような、手つかずのものではありません。人間が生活することで、少しずつその姿を変え、残念ながら絶滅した生物、あるいは数を減らしている種もいます。
人間もまた自然の一部なのだとすれば、ともに地球にいる仲間のことを考え、配慮していくべきでしょう。……このように書くと大げさに思えるかもしれません。個人で何かできるのか、疑問に思う人もいるでしょう。しかし、たとえば「釣り場にゴミを捨てない」だけでも、次に訪れた人は気持ちよくすごせます。
また、釣った魚をリリースしたり、繁殖期の魚は釣らないように配慮するなど、さまざまなことで魚と自然を守ることに貢献できるでしょう。釣り人が増えているということは、1人ひとりの心がけしだいで、フィールドは大きく変わるということです。
「そんなに魚が大切なら、釣りをしなければよいのでは?」
釣りをしない人から見れば、そう思われるかもしれません。でも釣りをするからこそ、魚を守ろうという気持ちが芽生えるのだと思います。魚を含む生きものに興味が持てない人は、おそらく種が絶滅したことにも気がつけないはずです。
「前はたくさんいた魚が減ってしまった」
「森がなくなったら、とたんに釣れなくなった」
自然の変化に真っ先に気がつけるのは、きっと釣り人です。私たちは釣りを通じて、魚や虫、木や草が教えてくれるサインを見逃さないようにしたいものです。North Angler’s編集部は、その小さな積み重ねが、北海道の豊かな自然を守ることにつながるのだと考えます。